打ち水科学研究所

Text by Tadahiro Katsuta(NPO peacefulenergy)


0.はじめに
1.ヒートアイランド現象とは
2.打ち水の科学とは
3.現代版打ち水実験
 1)正統派打ち水
 2)風打ち水
 3)日陰打ち水
 4)壁打ち水
 5)エアコン打ち水
 6)人間打ち水


※このテキストを英訳いただけるボランティア・スタッフを募集しています。トライしてみたい!興味ある方はぜひinfo@uchimizu.jpまでご連絡ください。

0.はじめに  

夏は暑くて当たり前!
それは本当のことですし、むしろそれを楽しむことが、私たちにとっては大事なことだと思います。
でも、どうやら最近では、そんなことはいっていられなくなってきました。私たちが生活の豊かさを過剰に求めたことが理由で、今までに経験したことのないような環境問題が生じてきたのです。それが、ヒートアイランド現象や地球温暖化問題などといわれるもの。
私たちが作り出した問題ならば、私たちで積極的に解決を試みる必要があるようです。
1.ヒートアイランド現象とは  


都市部の気温が郊外と比較して高くなる現象
で、現代的な、都市特有の環境問題の一つといえます。原因としては、冷暖房の増加による人工排熱の増加や、建築物や道路舗装の増加などが挙げられます(図1)。つまり、私たちが便利な都会の生活を求めた結果、反対に暮らしにくくなったという皮肉な結果になったといえます。

図1. ヒートアイランド現象の原因
出典:環境省大気保全局発行パンフレット『ヒートアイランド対策推進のために』

20世紀を見ると、地球温暖化の影響で世界の平均気温は約0.6度上昇しました。しかし東京や名古屋など、日本の大都市では約2〜3度上昇しています(図2)。

図2 世界の大都市の気温変動比較
左軸は各都市の年平均気温
<東京(大手町)、ニューヨーク(CENTRAL PARK)、パリ(LE BOURGET:パリ中心部より10数kmの地点)、世界>。
右軸は世界の年平均気温平年差を示し、世界の陸上の気象観測所における月平均気温の平年差データをもとに、
気象庁で算出(基準となる平年値は1971年〜2000年の平均値)。

このようにヒートアイランドの影響は深刻だといえるでしょう。特に近年は、昼間の気温が30度を超える期間や範囲が増え、夜間においては熱帯夜、つまり最低気温が25度以上になる夜が増加しているのです(図3)。




図3 日本の主要な4都市における熱帯夜日数(5年移動平均)
各地点について、年間の最低気温25℃以上の日数を5年移動平均したもの(出典:気象庁)。

2.打ち水の科学とは  

ヒートアイランドの対策として我々では打ち水の利用による解決策を求めていきます。なぜならそれは、効果がすぐに現れ、費用もかからず、人間や生活に馴染んだ方法であり、誰でも参加できるから。でも最も大事なポイントは「楽しい」ということ。

過去、打ち水の効果については、科学的で定量的な評価がなかったとはいえませんが、まだまだ十分とはいえないと思います。なぜなら打ち水は、「楽しい」という特徴を持つからこそ、私たち市民が積極的に試みて効果を共有することが大切だからです。

「打ち水の科学」という言葉には、二つの意味が込められています。

一つは、打ち水の効果をなるべく科学的に整理・調査すること。資金も何も無い状態では限界もありますし、背景となる環境自身が変動する状況では、そもそも効果が明確に立証できるのかさえ不明ですが、だからこそ、何か面白い現象を発見する楽しさがあるはずです。

もう一つは、打ち水を通して、科学技術や社会生活を私たちの目線の高さに取り戻すこと。というのは、打ち水の効果には、おそらく気温を下げること以外の重要な側面があると考えているからです。それをここでは「官能」と名づけます。つまり、紺色の浴衣、そよ風、風鈴など、そのイメージだけで涼しさを感じるような側面が打ち水にはあると考えています。そしてこの、大掛かりな測定装置では決して測ることの出来ない、これまでの日本が捨て去ってきた科学的な側面だと考えています。打ち水を通して、私たちにとっての本当の科学技術、そして社会生活を考えてみます。
3.現代版打ち水実験  

打ち水大作戦は社会実験の一種です。特に環境を相手にするわけですから、本音を言えば、正確で定量的な評価はかなり困難でしょう。でも、だからこそやります。答えが分からないからこそ価値があるのです。

まずは打ち水を楽しんでください。貯めた雨水を使ったり、お風呂の残り水を使ったりして、気の向いたときに打ち水をしてください。もちろん他人の迷惑にならないように、各自の責任で。そしてその時、せっかくだから少し実験してみませんか?大人の方は子どもの頃の理科実験を思い出しながら、そして子どものみんなは、暮らしやすい将来を夢見ながら...。

なにも真面目に考える必要はありません。ここで紹介する方法はちょっとしたいたずら心から出たようなものです。ぜひ皆さんも独自の方法を考えてください。そしてその効果をこの打ち水科学研究所に伝えてくださいね。未来のために情報を共有していきましょう。


1)正統派打ち水

従来は、打ち水は朝や夕方に行なっていたようです。朝の打ち水によって昼間が過ごしやすくなり、夕方の打ち水によって夜の寝苦しさが緩和するのでしょう。気化熱によって地面の熱を大気中に逃がす効果を利用しているわけです。
昼に打ち水をしないのは、熱いときにまくために一気に湿気が増えて不快感が増すから言われています。
はたしてこの現代において、それが本当なのでしょうか?実は誰も答えを知りません。一ついえることは、昨年はじめて行なった打ち水大作戦において、「昼間の打ち水をしたが気持ちよかった」「とくに不快に感じなかった」という意見がほとんどだったことです。このように、まだまだ分からないことはたくさんあります。そういうことを考えながら、打ち水を楽しんでください。

また、打ち水の効果は、物理的な効果と精神的な効果の二つに分かれると思っています。物理的な効果を測る「環境測定」では、温度や湿度などの違いを測定しますが、もっと人間的な情報、つまり水に触れることの涼しさや、浴衣を見たり着たりする効果、風鈴や虫の音による効果は測定できません。そのような変化を測ることを「官能測定」とここでは名づけます。

【 環境測定】
・打ち水をした場合としない場合の温度、湿度の違いを測る。この時、測定方法は同じにすること。この実験を何回か行って平均値をとれば、誤差は減少する。
・朝、昼、夕方など、時間帯を変えてみる。
・水の量を変えてみる。
・商店街で、打ち水をする場所としない場所を作って比較する。

【 官能測定】
・機嫌のいい時と機嫌の悪いときでの打ち水。環境測定で効果が同じなのに、感じる涼しさに違いが出るかどうか(応用:好きな人との打ち水と、そうでない人との打ち水を別々に行なうとどうなるか)。
・風鈴を近くにおいた場合と無い場合での打ち水。もし風速が同じなのに体感する涼しさが違えば、それは音の効果になる。
・年齢、性別による違い。

【 実験方法】
全ての人にオススメ。家族でやったり恋人とやったり。これを機会に浴衣を着るのもOK。家族や近所と会話するきっかけに。
家の前や会社の前で。商店街だとなお楽しいでしょう。迷惑にならない場所なら大丈夫です。


2)風打ち水

打ち水によって風をおこし、それでみんなで涼しくなろう!という実験です。
つまり、地表の温度に局所的な温度変化が生じ→ 温度変化は大気中の気圧変化を生じ→ 気圧の変化によって風が生じる、という原理です。

もちろん打ち水の時に突然吹いた風を、通常の風と区別することは困難です。だから無駄だと思われるかもしれませんが、図を見てください。近年の風と温度の状況を示すものですが、両者は密接な関係にあることが分かります。風をおこさない手は無いでしょう。

図 首都圏の夏のヒートアイランド現象の解析結果(出典:気象庁)
午後2時における気温と風の分布。
平成13〜15年の弱風(大規模な気圧配置による東京付近の平均風速が6m/s以下 )晴天日23事例の平均

この「打ち水風」は今回の重要なテーマです。多くの方が参加してくれればきっと風を感じることが出来るはずです。

【 実験方法】
商店街や学校の校庭でみんなで実験。風鈴やかざぐるまを測定装置代わりに。


3)日陰打ち水

日に当たって熱くなった地面だけでなく、木陰などの日陰にあえて行なう打ち水です。水の蒸発する時間が遅くなり、風を涼しく感じやすくなるかもしれません。また、暑い状況を下げるよりも、涼しい状況をより涼しくする方が効果あるかもしれません。意外と暑い地方(沖縄)で効果があるかも。

【 実験方法】
公園やオフィス街など、日陰がある場所ならどこでも。


4)壁打ち水

昔と違って、今の暑さは頭上の太陽だけからくるのではないようです。地面のアスファルトや建物に当たって吸収された太陽のエネルギーは、輻射として四方八方からやってきます。地面だけではなく、ビルの壁にも打ち水をする方法です。屋上から水をたらしてもいいかもしれません。もちろん許可を得て、迷惑にならないように。

【 実験方法】
ビジネス街で働くサラリーマンなどみんなで。オフィスビルや公共施設などで。


5)エアコン打ち水

エアコンの室外機はある温度条件のもとで適正に効果がでるように設定されています。しかし現代ではあまりに外が暑くなり、室外機が上手に機能しない状況が生じています。
そこで、エアコンの室外機に打ち水。水が直接かからないように室外機の前によしずを置き、それに水をかけてみれば無理な稼動は減り、電力消費も減る可能性があります。

【 実験方法】
家庭の主婦やサラリーマンなど。一軒家やアパート、会社でも。


6)人間打ち水

人間のセンサーは、首筋やひじ裏にあります。市販の小さなスプレー容器に水を入れてください。この場合はさすがに雨水は抵抗があるので水道水が良いかもしれません。お昼休みに、外で友人と水のかけあいっこをします。手作りのミントやアルコールを少しまぜても良いかもしれません。

自分自身にかける場合と、他人にかけられる場合で感じる涼しさに違いがでれば、それは官能測定を測っていることになります。なお冷たい水だと体がびっくりして心臓に負担がかかるかもしれません。常温の方がよいと思います。

【 実験方法】
友人達とみんなで。

さあ、あなたも打ち水実験に参加しよう!

Copyright(c)2003-2004 打ち水大作戦本部